「この子は水の気が多い」。 ハリウッドで映画化された芸者の一代記『SAYURI』に、祇園の置屋に売られてきた少女が女将からこう告げられる場面がありました。ものの気質を金、火、土、木、水と分類する五行説を使って、女将は少女の性格を「水」と判断したのです。果たしてその見立て通り、少女は芸者・さゆりとして、過酷な運命に逆らうことなく、水のようにしなやかに生きました。 京都の女と水。平安時代が舞台の謡曲『鉄輪』の女は夫の不実を恨んで貴船の水の神に訴え、歴代の皇后は皇子の健やかな成長を祈って神水を産湯に用いました。八坂神社に静かに湧く「祇園神水」では、舞妓や芸妓が美を願ってそっと手を合わせる姿があります。女たちは切なる思いを水に託し、都の水はそれを受け止め、浄化してきました。 京都には、琵琶湖に匹敵するだけの水量の地下水があるといわれます。この、硬度が低い「軟かな水」は、女性たちの肌をやさしく潤してきました。女の願いを水に託して、京都の水めぐりのドライブに出かけてみましょう。

1. 2. 3. 4. ここに紹介した名水は生水のため、加熱してお飲み下さい。 水を持ち帰るには匂いの付かない プラスチック容器がおすすめ。水筒だとエコ気分ですね。 水汲み場ではゴミなどを残さない、順番を守るなどマナーを大切に。 下記4箇所はどれも飲料OKですが、「飲用不可」と表示されている水は、 小さなボトルに入れてお守りなどにしても楽しいですね。

観光客やお参りの人で賑やかな八坂神社の境内で、静かに水を滴らせている「祇園神水」。時折、近所の人が、持参したタンクに汲み水をしている光景が見られます。「力水」とも呼ばれているこの水は、地下90mから湧く名水。この水を使ったコーヒーを出している店もあります。おいしいだけではなく、ご利益で舞妓や芸妓さん、化粧品業界からの信仰も集める水でもあります。そのご利益とは、ズバリ「美」。祇園の人たちから「八坂さん」と呼ばれるこの神社の神水は、付近で住み、働く女性たちの美への願いを受け止めてきたのでしょう。湧き水のそばには「美御前社」があり、この前に湧く「美容水」を一滴、お顔に塗ると、さらにご利益が…。

清水の舞台の下にある「音羽の滝」。清水寺の名前の「清水」は、もともとこの水のことをさしたのだそう。三筋の滝は年中同じ水量で湧き出し、それぞれ「健康、学業、縁結び」のご利益があるといわれます。とはいえ、３本のうちどれが縁結びの水か、という表示はなく、「水源は同じ」と、運を天に任せて長い柄杓で水を汲み取ることに。落ちる水の水圧はなかなか強く、長い柄杓に受けとめるにはコツが必要。それが「ご利益、なり難し」という戒めのようにも感じられ、口にした水の味も、なおさらありがたく感じられます。帰りには水汲み場の背後に鎮座するお不動さんにお参りを忘れずに。良縁を祈願する人は、地主神社に立ち寄って、念押しも。

母神のご神像があり、祀られているのは全て女神。そして、清和天皇から後鳥羽天皇にいたる二十七代の皇子の産湯はこの水を用いていたという故事から、女性に縁が深い神社として信仰されています。ご利益も良縁、安産、女人厄除け…と、まるで「女の悩みの総合外来」のような頼もしい神様です。マンションと一体となった神社の造りは近代的ですが、一歩境内に入ると、こんこんと湧き出る水の音に心癒される…そんなシチュエーションも、街中の神社らしくユニークです。汲み水のための蛇口も設けられていて、こちらは気軽に水を汲みに来る近所の人に利用されています。女人厄除けの祈祷も行なっており、お参りの後は「女人守り」をいただきましょう。

白装束、手には藁人形と五寸釘…。謡曲『鉄輪』にも描かれた「丑の刻参り」の舞台として有名な貴船神社。お芝居の話とはいえ、夏でも肌寒い空気、鬱蒼とした木立は、さもありなんという神秘的なムード。貴船神社は加茂川の水源に位置し、平安遷都以降、水の神様として信仰されました。『鉄輪』のイメージからか、民間では男女の縁結び、あるいは縁を切る神としても親しまれています。また、難病に効くというフランスの泉になぞらえ「日本のルルドの泉」とも呼ばれ、心身の健康祈願をする人も多いとか。芳しい山水の味がする「神水」を頂くと、すがすがしくリフレッシュ。水の神様がどこからか見守ってくれているような気分。水に浸すと文字が浮き出る「水占い」も楽しい。